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大阪高等裁判所 昭和48年(く)84号 決定

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告申立の理由は、申立人ら連名作成の「即時抗告の申立及び理由書」と題する書面記載のとおりであるが、その要旨は、

被告人に対する頭書被告事件は、奈良地方裁判所において、分離前の相被告人川井春三、同荒井忍および同長谷川八太人に対する各恐喝等被告事件と併合して審理されていたところ、昭和四八年三月二六日の第二七回公判期日に被告人が出頭しなかつたため被告人に対する事件が分離されたうえ、相被告人に対しては同年五月二一日有罪判決の言渡がなされたが、裁判官高木実は、右相被告人の事件の審理に合議体の構成員の一員として関与し、被告人に対する頭書被告事件において弁護人がその信ぴよう性を争おうとしている被告人の捜査官に対する各供述調書の証拠能力を認めて被告人と共通の公訴事実につき被告人との共謀事実を認定し、右有罪判決をしたものであつて、同裁判官が被告人に対する事件の今後の審理に合議体の構成員の一員として関与することは、刑事訴訟法二一条一項前段、後段に該当し許されないものといわなければならないので、被告人の主任弁護人である藤田太郎は同裁判官に対し右事由に基づいて忌避の申立をした。然るところ、奈良地方裁判所は、昭和四八年一〇月二九日、「裁判官は良心と法律に従つて証拠を判断し事実を認定する義務を負つているものであるから、弁護人主張のように裁判官高木実が合議体の一構成員として被告人の前記各供述調書の証拠能力を認めて分離前の相被告人らに対し有罪の判決をなした事実があるにしても、この一事のみをもつて直ちに被告人に対する関係においても各供述調書の 拠能力を認めて有罪の判決をなすものと断じ、忌避の理由となすことはできない」との理由により右忌避の申立を却下する旨の決定をした。然しながら、裁判官高木実が分離前の相被告人に対する事件につき有罪判決をしたのは、「同一の裁判官が共犯者の公判審理により被告人に対する事件の内容に関し知識を得た」程度のもの(昭和二八年一〇月六日最高裁判所第三小法廷判決の事例)ではないことは勿論、「共犯者に対し被告人との共謀にかかる公訴事実につき有罪の判決をした」場合(昭和三六年六月一四日最高裁判所第一小法廷決定の事例)にも該当せず、同裁判官は、相被告人に対する有罪判決の中で、被告人に対し、相被告人との共謀にかかる公訴事実を認定し、被告人をも有罪と断定しているのであるから、同裁判官が被告人に対する事件の今後の審理に関与することは刑事訴訟法二一条一項前段、後段に該当することは明らかであり、従つて、原決定は憲法三七条一項に違反する違法な決定であるのみならず、昭和二五年三月一八日の高松高等裁判所決定の趣旨にも反する判例違反の決定であつて、取り消されるべきものである、

というのである。

そこで、検討するのに、右即時抗告申立理由の要旨に記載した本件忌避申立に至る経過事実は関係記録によりこれを認めることができる。然しながら、裁判官高木実が前記相被告人に対する事件の審理に合議体の構成員の一員として関与し、被告人の捜査官に対する各供述調書の証拠能力を認めて被告人と共通の公訴事実につき被告人との共謀事実を認定して有罪判決をしたのは、あくまでも相被告人の事件に対する関係においてであり、右有罪判決が、所論の如く、被告人に対し、相被告人との共謀にかかる公訴事実を認定し、被告人をも有罪と認定しているものとは到底解し難いから、同裁判官が右有罪判決に関与したからといつて、それが、被告人に対する事件の審理に関与するについて除斥の原因となる筈はないのみならず、同裁判官が被告人に対する事件の審理に関与した場合不公平な裁判をするおそれがあるともいえないことは、原決定の示すとおりであり、このことは、所論指摘の昭和三六年六月一四日最高裁判所第一小法廷決定の趣旨に徴し十分首肯できるところであり、又、所論指摘の高松高等裁判所の判例は、右第一小法廷の決定により既に変更されたものと解すべきである(最高裁判所判例解説刑事篇昭和三十六年度一五七頁参照)から、原決定が右判例に違反するともいえない。

よつて、本件即時抗告は理由がないから、刑事訴訟法四二六条一項により主文のとおり決定する。

(原田修 高橋太郎 角敬)

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